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健幸施策として抜け落ちている「ママ支援」 未来の健幸社会を支える基盤としての若年・子育て女性支援

  • 5 日前
  • 読了時間: 9分

更新日:3 日前

超少子高齢社会における「静かな盲点」


日本は、世界有数の超高齢社会に突入し、医療・介護・年金を中心とした高齢者向けの政策については、急速に拡充されてきました。高齢者支援が喫緊の重要課題であることは、言うまでもありません。

しかしその一方で、若年層や子育て世代の女性に対する支援が健幸政策の中で抜け落ちている感が否めません。


私たちは長年、健康科学と政策実装の両面から「健幸」という視点を用いて、地域社会における効果的な健康づくりを提言・実践してきましたが、その中で痛感しているのが、未来の健幸社会を支える基盤として、若年層や子育て女性への支援が極めて重要であるにもかかわらず、現在の政策ではその観点が著しく欠けているのではないか、という問題意識です。

超少子高齢社会では今や、子育て女性はマイノリティであり、家事・育児、仕事等に追われて、自分の心や体に目を向ける時間も乏しい上、社会に向けて声を出すこともままなりません。



ハイリスクアプローチとポピュレーションアプローチは両輪


ハイリスク対策に追われ、ポピュレーションアプローチが軽視される悪循環


日本の健康政策は長らく、医療費等の高騰を背景とし、ハイリスクアプローチとくに中高年者を中心とした疾病や介護のリスクの高い人たちを対象とした対策が主流でした。これは、財政合理性の観点から理解できる面もあります。


しかし、そのようなハイリスク層は、健康日本21において当初から指摘されている通り、全人口から見ると少数派に過ぎず、スクリーニングを行い、必要な人たちを抽出するのに膨大なコストや労力がかかってしまい、社会全体の健康度を上げるという点では、必ずしも効率的とは言えません。


一方、そのような事後対応ではなく、そもそもそのような疾患や障がいに至らないようにするため、人口全体に軽い介入をコストをかけずに行うのがポピュレーションアプローチです。ところが、すでに悪化させてしまったハイリスク層へのハイリスクアプローチに多くの時間や労力、リソース等が注がれた結果、両輪で展開されるべきポピュレーションアプローチが結果として軽視され、次々にハイリスク者が生じる悪循環に陥っている、と言わざるを得ない状況となっています。


若年・子育て世代の女性たちにこそ不可欠な視点


ポピュレーションアプローチとは、特定のセグメント(階層)の人たちだけでなく、社会全体に健幸的な行動を促す環境を整え、対策のカバー率を上げて、意識せずともより良い行動が選択されるようにする、という考え方です。


その具体策の一つが、意識が低いまま自然に歩いてしまう歩きやすいまちづくりであり、リスク者が増えないように生活の「場」から健幸を支える、という発想です。

このようなアプローチこそ、今まさに多方面からの支援が届いていない若年・子育て世代の女性たちに不可欠な視点です。


内閣府SIPで実装する子育て女性支援「マムアップパーク」が目指す支援構造の転換


国家的課題にチャレンジングに取り組む内閣府SIP


若年・子育て世代の女性たちへの支援不足に応える新たな構想として生まれたのが、内閣府SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)によるDX伴走型支援「マムアップパーク(MOM UP PARK)」です(図1)

内閣府SIPとは、国家的課題をトップダウンで改善する社会実装プロジェクトで、基礎研究から社会実装までを見据えて、一気通貫で研究開発を推進するものです。府省連携が不可欠な分野横断的な取り組みを産学官連携により推進するもので、マッチングファンド等による民間企業の積極的な貢献が期待されています。また、単なる科学技術の開発にとどまらず、社会を変える「社会技術」としての事業、制度、社会的受容性、人材の視点から社会実装を推進することも、大きな特徴となっています。

 


<図1 内閣府SIPで展開中のマムアップパークの特長>



「マムアップパーク」は健幸支援の新しい形


「マムアップパーク」は、私たちが提唱する「スマートウエルネスシティ構想」に基づき、地域の母親たちが気軽にオンライン&オンサイトに集まり、楽しく前向きな子育てに向かうために必要な健幸に関する情報や支援に自然にアクセスできる包括型支援拠点として開発されたものです。


 0~6歳の子どもを持つ子育て女性を対象とし、運動指導者や保健師、助産師、管理栄養士、心理士、キャリア支援者などが連携し、一人ひとりのママに寄り添い、相談や交流、健幸講座、運動支援までを一体的に提供します。単に支援の窓口を一つに集約したものではなく、「自身の健幸課題と、その解決のためのさまざまな支援の存在に気づき、つながれる」設計がなされています。



不定愁訴等に悩むママへの運動支援の重要性「マムアップパーク」の挑戦


子育て女性が自身の健幸のために「動けない理由」は社会構造にある


「マムアップパーク」では、健幸や前向きな子育てを支える大きな柱の一つとして、「運動習慣化の支援」にも力を入れています。とくに注目すべきは、オンラインとオンサイトの両方で展開する「マムアップパーク」の存在です。



私たちが実施した調査によると、「自身のケアに向ける時間がない」「自身のケアのために子どもを預けると口に出しにくい風潮がある」「疲弊してしまい、運動に行く服装にすら気が回らない」といった理由で、身体を動かす機会を持てない子育て中のママたちがとても多いことが明らかになりました。

これは、本人の「やる気」や「努力不足」の問題ではなく、超少子高齢社会の進展に伴い、女性の就労を拡大・深化させてきた社会的・構造的な課題によるものです。


「マムアップパーク」では、目が離せない0歳児の育児中の母親でも自宅から無理なく参加できるよう、短時間・低負荷・リフレッシュ目的のオンライン運動プログラムを提供しています。

また、市町村や企業等のオンサイトで実施する対面型のスタジオは、講師陣の質を標準化する講座の受講を義務づけた上、保育支援等と一体化させた、地方のリソース不足等を原因とした「運動したいけどできない」という地域間格差を解消するための新たなモデルにもなっています。



なぜ子育て女性に「マムアップパーク」を介した運動が必要なのか?


運動による健幸改善効果


育児中の女性は、ホルモンバランスの変化や頻回な授乳等による睡眠不足、社会との断絶などから、心身ともに不安定になりがちです(図2)。そんな中、同じ月齢・年齢のお子さんを持つ母親たちとおしゃべりをしながら、軽い運動をするだけでも、それが「自分を取り戻す時間」になり、前向きな気持ちが育つことがわかりました。

 


            <図2 イマドキのママが抱える健幸課題>




運動は、単に育児に欠かせない体力を維持・向上させるだけではありません。それに加えて、ストレスの軽減、自己肯定感の回復、社会との接点の確保といった多面的な効果があることが明らかになっています。


実際に「マムアップパーク」に参加した母親からは、「朝から体を動かすと、1日が前向きにはじめられる」「子どもと少しだけ離れ、自分でいられる時間を持てたことが貴重だった」などの声が多く寄せられています(図3)



           


         <図3 マムアップパークのここまでの効果>



自治体がいま「ママ支援」に向けて行動すべき理由


健幸支援は、「福祉」ではなく、「未来への投資」


このような包括的かつ柔軟な「ママ支援」モデルは、単なる福祉的施策ではなく、次世代を支える健幸社会の基盤として捉えるべきです。


前述のような運動支援ひとつをとっても、産後うつなどの予防、体力の回復、それに伴う家庭内の安定や早期の社会復帰、さらには労働生産性の向上や地域経済の活性化にも寄与する可能性を秘めており、SIPによる社会実装の中で多くのエビデンスが積み上がりつつあります。


つまり、子育て世代を「支援の対象」と捉えるのではなく、「社会のエンジン」として位置づけることで、地域の健幸度そのものが向上する可能性が高いのです。


複合的に絡む政策課題に直面する自治体の「羅針盤」


全国の自治体担当者にとっても、「マムアップパーク」のような拠点は、単なる一施策にとどまらず、地域が持つ資源を活かし、つながりを編み直す「起点」、ソーシャルキャピタル醸成の「拠点」になると考えられます。


行政、企業等の地域資源、住民等が協働して育てるこの構想は、昨今の地域包括ケアシステムにおける経験からも明らかなように、再現性が高く、地域特性に応じたアレンジも可能と言えます。


とくに今後、「子育て支援」「女性活躍」「メンタルヘルス」「運動習慣化」などが複合的に絡む政策課題に直面する自治体にとって、このようなモデルは一つの「羅針盤」になるはずです。



幸社会は「支援される側」から、そして「地域発の政策」から生まれる


「健幸」とは、病気の有無ではなく、「誰もが自分らしく、前向きに暮らせる社会」を意味します。そして、その実現には、「支援される人」を「支援する人」に転じていく循環が不可欠です。



「マムアップパーク」は文字通り、その循環を生み出す取り組みと言えます。今こそ、子育て女性が孤立せず、心身ともに健やかに生きられるような健幸社会を、地域発の政策から実現していきましょう!




参考文献・資料

  1. MOM UP PARK公式サイト

    https://www.mamamo-mannaka.jp/momup-park/

  2. 久野譜也(2021)「スマートウエルネスシティ構想の理念と展開」筑波大学大学院講義資料

  3. 厚生労働省『健康日本21(第三次)』https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kenkounippon21_00006.html

  4. 国立社会保障・人口問題研究所『出生動向基本調査』

    https://www.ipss.go.jp/ps-doukou/j/doukou16/doukou16_gaiyo.asp?utm_source=chatgpt.com



久野 譜也 wikipedia https://x.gd/yFXl3

筑波大学大学院人間総合科学学術院 教授

筑波大学スマートウエルネスシティ政策開発研究センター センター長

内閣府SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)プログラムディレクタースマートウエルネスシティ首長研究会 事務局長・幹事

株式会社つくばウエルネスリサーチ 代表取締役社長

筑波大学および同大学院でスポーツ生理学、スポーツ医学などを学ぶ。体育学修士、医学博士を取得。

その後、東京大学教養学部保健体育科助手、東京大学大学院総合文化研究科生命環境科学系助手、筑波大学先端学際領域研究センター講師、カリフォルニア大学Davis医学部客員研究員などを経て、筑波大学大学院人間総合科学研究科スポーツ医学専攻助教授、同教授(2020年より筑波大学人間総合科学学術院に名称変更)。

この間に産官学連携で健康に関する社会課題を解決するため、筑波大学発ベンチャー株式会社つくばウエルネスリサーチを起業。代表取締役社長を兼任。

高齢者の健康寿命延伸を目的とした運動プログラムの開発に取り組み、その後、「スマート・ウエルネス・シティ(SWC)」の概念を提唱し、自治体とともに健幸まちづくりの社会実装を推進する。 また、スポーツ庁や厚生労働省等の委員を務めるとともに、経済産業省、国土交通者、内閣府など中央官庁の研究事業等を受託し、政策立案にも関与。


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