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゜。TWR Column 。゜-第3回- 「見える」から「活かす」へ ~データ分析はまちの未来を設計する羅針盤

  • 5月27日
  • 読了時間: 8分

属人的な「経験」から客観性ある「エビデンス」へ


生活習慣病の増加と超高齢社会の進展に伴い、健康政策の立案と実行には、これまで以上に科学的根拠と精緻な計画が求められています。



これまでの健康政策は、過去の成功事例や経験に基づいて策定・実施されることが多かったと言わざるを得ませんが、このような傾向がより顕著になり、地域特性や住民の行動傾向が多様化する現代においては、属人的な勘に依存した再現性の低い政策運営では効果が得られず、限界が生じます。


こうした状況を背景として各方面において、データ分析に基づく政策立案が注目され、分析結果を政策判断の根拠とし、成果にもつながる実行プランを構築する取り組みが全国各地で加速しています。データ分析は、とくに地域ごとのリスク構造や生活実態を可視化し、対策の優先順位や適切な介入方法を見極めるための指標として、きわめて有効と言えます。


見附市の成功──分析データを政策判断の根拠情報として活用


新潟県見附市は、データ分析を活用した健康政策によって、医療費・介護費の削減に明確な成果を上げてきた代表的な自治体の一つです。


同市は、データヘルス計画を策定・実行し、健康増進事業の内容とともに、成果を定量的にモニタリングした結果、国民健康保険の法定外繰入金が7年間にわたってゼロを維持しており、ほかの同規模自治体と比較しても圧倒的な財政効率を実現しています(図1) <図1 見附市とA市における国保法定繰入金の推移>


注目すべきは、同市が行ってきた施策がほかの市町村と比べ、とくに異っていたわけではないという点です。表1を見ればわかるように、運動指導や食生活改善といった健康教育の内容は一般的であり、いわば「ありふれた政策」を実施しているに過ぎません。 <表1 見附市とA市のデータヘルス計画における事業の比較>


大きく異なっていたのは、これらの事業等を実行する際に、KGI (重要目標達成指標=Key Goal Indicator。最終的なゴールを示す指標)と、KPI (重要業績評価指標=Key Performance Indicator。KGIを達成するための中間指標)などの評価指標を行政計画等に緻密に組み込んだ上、地域の実情に即してデータ分析を行い、KPI等と照らし合わせて事業の参加者数やプログラム内容などを常に見直し、施策のPDCAサイクルを徹底して回していた点でした。すなわち、分析データを単なる記録や報告にとどめず、「地域の健康課題を言語化し、政策判断に転換する情報」として活用していたのです。


これにより、自治体内の職員間や議会、住民等との間に共通認識が育まれ、協働の基盤が築かれていったのです。



「分析力」とは「読み解く力」と「意味づけの力」


多くの自治体では、保健師等の専門職が中心となって健康政策が立案・遂行されていますが、現場からは「統計が苦手」「データをどう読めばよいかわからない」といった声が根強く聞かれます。そして、セミナーや研修事業等で、統計手法や分析ソフトの使い方などを学んだり、データ分析そのものを安易に外部委託するなどのケースが残念ながら増えているようです。

しかし私は、このような「統計技術重視の偏向」に危惧を抱いています。統計手法等のスキルそのものは、外部委託すれば補えるでしょう。ですが重要なのは、単なる統計的なスキルではなく、むしろ“データを読む力”であるはずです。それこそが自治体の政策担当者が高めるべきスキルです。つまり、大切なのは統計手法よりも、「何を知り、何を改善するために分析するのか?」という本質的な視点であり、その目的意識の庁内外における共有が大切だと思うのです。


分析が目的ではない


分析とは、「手段」であって、「目的」ではありません。重要なのは、政策目標に対してどのような構造でデータを読み解き、何を明らかにし、誰にどのように伝え、カイゼンするかという「分析の姿勢」なのです。

データは、単なる数値の羅列ではありません。社会の動態、生活習慣、環境条件、人々の価値観などを読み解く「言語」と言えます。そのような文脈でデータと向き合って初めて、その真価が発揮されます。要するに、「分析力」とは、「読み解く力」であると同時に、「意味づけの力」なのです。



データは、見えない課題に光を当てる「政策のレンズ」


7割が健康への関心がないという実態


生活習慣病予防を目的とした全国調査(約2,000名)では、基準となる運動量を満たしていない人が7割近く存在し、うち約7割が「今後も運動をするつもりがない」と回答していたことが明らかになりました。この事実が示すのは、「理解しているけど行動できない」という以前に、そもそも健康に関わる情報を得る努力すらしていない、いわゆる「健康無関心層」の存在が鍵になる、という指摘をしました。(参考記事 https://www.twr.jp/post/column01 )


この集団は、保健行政からの情報発信が届いていないばかりか、従来の健康施策では対象とされてこなかった層であるとも言えます。これまで成功モデルとされてきた汎用的施策の限界を突きつけたこのエビデンスは、見えない課題に光を当てる「政策のレンズ」として機能したと言って良いでしょう。今後の政策立案には、こうしたデータによるセグメンテーションとその特性に応じたアプローチの設計が不可欠です。

これらから言えるのは、従来型の広報や健康教室では、健康情報を取得していない(取得するつもりもない)層には効果が薄い、ということです。したがって、彼らがアクセスしやすい情報源や接点などを丁寧に把握し、届くデザインを設計し、健康無関心という構造的な壁をどのように乗り越えるかをしっかりと検討することが今後の政策課題の核心と言えるのです。


「伝える手段」ゆえ、「翻訳者」としての自覚を


見附市とA市のように、たとえ同様の施策を実施していたとしても、成果の見える化や住民や議会への説明の巧拙によって、それらからの支援と協力の度合いが大きく異なることは、容易に想像できるでしょう。


インパクトのある数値の引き出し方、グラフや表の見せ方、比較対象の選び方といった工夫が政策提案の納得性を高めると言い換えられます。



つまりデータとは、「伝える手段」であり、正確さに加え、「構造的な表現力」が求められます。すなわち、自治体の実務担当者が現場に適した「翻訳者」としての役割を果たすことにより、データは初めて政策判断の重要な材料としての力を持ち得るのです。


そのためには、単に「報告のための資料」をつくるというスタンスではなく、住民や組織の「行動を引き出すための可視化」を意識したデータ整理と設計が不可欠です。政策における合意形成もまたデータの持つ物語性に支えられているからです。



政策を担う者は「沈黙の声」を読み解き、未来を設計する責務を持つ


データ分析に必要なのは、単なる統計知識や分析ソフトの操作スキルにとどまりません。むしろ、現場の課題と向き合う姿勢、政策の成果を出すことに対する責任感、そして住民の未来を想像する構想力が問われます。


 政策とは、「実施すること」ではなく「結果を出すこと」であり、そのための羅針盤となるものがデータです。データを用いる際に欠かせないのは、「見える」から「活かす」へという視点です。今こそすべての自治体に求められるのが、「データを読む力」、そしてそれを人々の生活改善へとつなげていく「政策としての物語」です。


その「物語」を紡ぐためには、データが誰のために存在しているのかを見失ってはなりません。その数字の向こうには、一人ひとりの暮らしがあり、声なき声があります。政策を担う者は、その「沈黙の声」を読み解き、未来を設計する責任を担っているのです。



参考文献:


久野 譜也 wikipedia https://x.gd/yFXl3

筑波大学大学院人間総合科学学術院 教授

筑波大学スマートウエルネスシティ政策開発研究センター センター長

内閣府SIP(戦略的イノベーション創造プログラム) PD

スマートウエルネスシティ首長研究会 事務局長

株式会社つくばウエルネスリサーチ 代表取締役社長


筑波大学および同大学院でスポーツ生理学、スポーツ医学などを学ぶ。体育学修士、医学博士を取得。

その後、東京大学教養学部保健体育科助手、東京大学大学院総合文化研究科生命環境科学系助手、筑波大学先端学際領域研究センター講師、カリフォルニア大学Davis医学部客員研究員などを経て、筑波大学大学院人間総合科学研究科スポーツ医学専攻助教授、同教授(2020年より筑波大学人間総合科学学術院に名称変更)。

この間に産官学連携で健康に関する社会課題を解決するため、筑波大学発ベンチャー株式会社つくばウエルネスリサーチを起業。代表取締役社長を兼任。

高齢者の健康寿命延伸を目的とした運動プログラムの開発に取り組み、その後、「スマート・ウエルネス・シティ(SWC)」の概念を提唱し、自治体とともに健幸まちづくりの社会実装を推進する。 また、スポーツ庁や厚生労働省等の委員を務めるとともに、経済産業省、国土交通者、内閣府など中央官庁の研究事業等を受託し、政策立案にも関与。


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